8月5日、名古屋駅の中日ホールにて、起業家や自治体などが集まるセミナー&交流会「NIKKEI THE PITCH Meetups」が開催されました。「地域の持続可能性」と「未来創造型ビジネス」をテーマに、地域の社会課題に向き合う有識者や新規性のあるビジネスを手掛ける起業家が議論を繰り広げました。新規事業を検討する企業や町おこしに関心のある参加者も加わった名刺交換会の場も設けられました。
トークセッション第1部
地域の持続可能性を考える
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登壇者
岐阜県清流の国推進部市町村 課長
林田 直樹氏
石徹白洋品店株式会社 取締役
平野 彰秀氏
株式会社On-Co 代表取締役
一般社団法人旅する学校 理事
総務省 地域力創造アドバイザー
第6回日経ソーシャルビジネスコンテスト 優秀賞受賞水谷 岳史氏
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モデレーター
株式会社横田アソシエイツ 代表取締役
慶應義塾大学大学院 政策・メディア研究科特任教授
一般社団法人アンカー 共同代表理事横田 浩一氏
空き家解消へ知恵結集、地域残す持続可能な解決策とは
横田 地方で問題となっているのが「空き家」です。空き家問題の現状や解決法についてどのように考えていますか。
平野 岐阜県の石徹白という集落で洋服販売をしています。アパレルブランドとしての側面だけでなく、先人から継承した洋服の作り方を広めることにも取り組んでいます。石徹白はまさに課題先進地で空き家だらけです。150軒あるうちの50軒は空き家ですね。それでも「仏壇がある」「子どもが帰ってくるかもしれない」といった理由でなかなか貸してもらえない。移住希望者がいても貸せる空き家がないんです。
水谷 私は空き家活用のマッチングサービス「さかさま不動産」を運営しています。「空き家を使って何をしたいか」といった借り手の情報を掲載し、大家さんが「貸したい人」を探すのが特徴です。よく話題になる、空き家をゼロにするという議論は現実的ではないと思っています。そう簡単に取り壊せないですよね。取り壊してただお金に換えるのも勿体ない。それに「いい人がいれば貸したい」という大家さんは多いわけです。貸せる空き家を探すよりも、まずは「借りたい人」の情報を出してあげるべきではないでしょうか。
林田 岐阜県ではSDGsに取り組む企業が増えた一方で、その活動が可視化されていない課題がありました。こうした企業や団体を行政としてさまざまな側面から支援しています。空き家については、改修する余裕がないという声が多いですね。私は学生時代に地域プログラムとして空き家を活用したことがあります。こうした事例やストーリーが増えれば、行政としても支援の流れを作りやすくなるかもしれません。
横田 本日のテーマである「地域の持続可能性」を考える際に何がポイントとなるのでしょうか。
平野 残れない地域が出てきてしまうのはどうしても仕方ないことです。結局のところ地域が残るかどうかは、住む人たちが本気で残そうと思うかどうかにかかっている。石徹白では住民がお金を出し合って小水力発電所を作り、電気を賄っています。地域ならではの自然を活用して自主財源を確保する狙いもあります。こうした取り組みや魅力を発信して、残す価値のある地域であることを示さなければいけません。
水谷 地域を訪れると「うちの街を盛り上げるのは難しい」と話す方が結構いるんです。それでは駄目だと思っていて。以前、さかさま不動産で「挑戦を応援できない街なんて持続可能じゃない」というキャッチコピーを掲げました。新たな取り組みを誰もが応援している街は持続する。自分たちが諦めてしまえば先はありません。そこに街の規模感は関係ない。少しずつでも街を変えるための議論ができていて、企業誘致などに取り組んでいるところは面白くなる。こうした街は持続可能性も高く、私自身も魅力を感じます。
林田 消滅可能性自治体が発表されてから、地域で暮らす方々のご意見を聞くことが増えました。岐阜県は土地が広く、さまざまなインフラが限界に近づいています。高度経済成長期は、行政が地域課題を解決する流れが強かった。今では行政の支援だけで成立する世の中ではなくなりました。行政の支援に加えて、地域の方々がどれだけ思いを持って取り組めるかが重要です。「想いのある地域」が残っていくのだと私も考えています。
トークセッション第2部
未来創造型ビジネスを生み出す極意
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登壇者
株式会社SkyDrive エアモビリティ事業開発部
企業企画チーム 事業戦略Director金子 岳史氏
ワボウ電子株式会社 取締役副社長
月ヶ瀬 義人氏
Crystal株式会社 代表取締役社長
蒼佐 ファビオ氏氏
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モデレーター
中京大学 総合政策学部教授・副学部長
坂田 隆文氏
壁を越えて進め! 社会を変えるビジネスの作り方
坂田 お三方は社会へインパクトを与えるビジネスを推進されています。新たなビジネスを生み出すポイントはなんでしょうか。
金子 「空飛ぶクルマ」と呼ばれるようなモビリティを開発しています。見た目はヘリコプターに似ていますが、街中で気軽に乗り降りできる点が大きな違いです。難しいのは「誰も見たことがないような世界」を実現しようとしていること。場合によっては現行のルールを変えなければいけない。社会にとってどのように役立つのかが明確でなければ、関係者を巻き込めません。ある種「社会のデザイン」とも言えます。企業や自治体とコンセンサスを取って進めるのは非常に手間がかかる。それでも地道に壁を乗り越えなければ新規事業は実現しません。
蒼佐 創業から車載用ソフトウェアの開発など、自動車メーカーと連携した開発や解析を行ってきました。直近は電動キックボードのシェアリングサービス「Su__i(スーイ)」など、マイクロモビリティ定着に向けた活動にも取り組んでいます。自動車業界は昨今の円安で潤っているように見えるかもしれませんが、国内の販売は鈍化しているのが現状です。業界では、低迷する市場で生き延びるための方策が日々議論されています。当社としては、自動車の「所有」から「シェアリング」という市場を作っていくことが必要だと提唱しています。実現に向け、世の中の理解を得ることにしっかりと時間を使わなければいけません。
月ヶ瀬 ワボウ電子はもともと繊維業の会社です。現在では、電子機器製造や半導体製造装置の組み立てなどを主に行っています。2020年からは、抗生物質などの薬品を一切投与せずに育てる自社ブランド海老「おうみ海老」の養殖を新規事業として始めました。実は日本は海老の90%以上を輸入に頼っています。ところが、養殖に必要な森林伐採や海老への抗生剤投与が環境破壊につながっている。この社会課題を解決したいという社員の熱い思いから始まりました。天然の海水にはマイクロプラスチックなどの不純物が含まれており、海老の病気につながります。おうみ海老の養殖には、伊吹山の綺麗な地下水を使った人工海水を用います。人工海水で育てることで病気の心配がなく、投薬の必要もなくなるのです。さらに長年のモノづくりの経験を余すことなく活かし、環境にも優しい陸上養殖を実現しました。まさに「創造」です。ただ、これまでにない事業を始めるにあたって、補助金申請などで足踏みすることもありました。
坂田 既存のルールが新規事業の障害になることもありそうですね。こうした障害はどのように乗り越えるべきでしょうか。
金子 まさに法規制は大きな壁の一つです。既存の法に従いながらも、新たな取り組みとしてルールを変えていかなければいけない。それを乗り越えることで社会にとって大きな価値がもたらされるのです。壁が高いほど乗り越えた際のインパクトも大きい。困ったときはビジョンに立ち返ることも必要です。これらの繰り返しが重要なのではないでしょうか。
蒼佐 民間の力だけで社会にインパクトを与えることは困難です。我々も法規制には悩むことがありますし、関係者それぞれに考えがあるのでどうしてもハレーションが起きてしまう。その中で突き進むためには志を持っていることが重要です。そうでなければ軸がぶれてしまうかもしれない。事業の成功事例は山ほどあってもそれが事業成功の答えだというわけではありません。最終的には、その事業にフルコミットして事を成す意思が持てるかどうかでしょう。