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貧困問題解決の手段として、低所得層の人々に対して、生活・事業に必要な資金を融資するマイクロファイナンスが注目を集めている。五常・アンド・カンパニー(五常)は、新興国でマイクロファイナンス事業を展開し、誰もが金融サービスを利用できる「金融包摂」の実現を目指す企業だ。同社の代表・慎泰俊氏と、SMBCグループのSMBCベンチャーキャピタル(SMBCVC)の山内心吾氏は、同じ金融業界のプレーヤーとして、金融包摂が行き届いた未来を目指す。
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慎 泰俊氏
五常・アンド・カンパニー 創業者・代表執行役
1981年東京都生まれ。モルガン・スタンレー・キャピタル、ユニゾン・キャピタルでPE投資実務に従事後、2014年に五常・アンド・カンパニーを共同創業。また、2007年にLiving in Peaceを設立し、マイクロファイナンスの調査・支援、国内の社会的養護下の子どもの支援、国内難民支援を行う。 -
山内 心吾氏
三井住友銀行にて中堅・中小企業向けの法人営業に従事後、2011年4月公募にてSMBCベンチャーキャピタルへ出向。出向解除後、オーナー系上場企業向け法人営業や証券での本社企画業務に従事し、2022年4月SMBCベンチャーキャピタルに帰任し現職。
五常・アンド・カンパニー株式会社
五常はアジア及びアフリカの12カ国で事業を展開するグループ会社を通じ、途上国において中小零細事業向け小口金融サービス(マイクロファイナンス)を展開するホールディングカンパニー。金融包摂を世界中に届けることをミッションとして、2014年7月に設立。低価格で良質な金融サービスを50カ国に届けることを目指す。2024年3月末時点で1万人を超えるグループ従業員を擁し、グループ合算の顧客数は240万人を突破。
世界中の人に金融アクセスを届ける
- 山内五常・アンド・カンパニー(五常)は、新興国の人々に金融サービスを届けるべくマイクロファイナンス事業を展開されています。
- 慎私たちのミッションは、金融包摂を世界中に届けることです。現在、新興国の人口の約3割にあたる10億人を超える人が、金融サービスにアクセスする手段を持っていません。そうした方々に対して、融資をはじめ預金や送金などの金融サービスを提供することが主な事業です。アジアとアフリカの12カ国で事業を展開し、グループ合算の顧客数は240万人を突破しました(2024年3月末時点)。
- 山内マイクロファイナンスに特化しているのが御社の特長ですね。
- 慎五常は各国にある事業会社の持株会社として、マイクロファイナンスに関するノウハウを蓄積しています。スタッフに財務やテクノロジーの専門家をそろえ、各国のグループ会社と知見を共有することで、オペレーションを改善できるのが当社の強みです。

- 山内金融事業を行うに当たって、大事にしていることはなんでしょうか。
- 慎顧客のニーズに寄り添った融資を行うことです。たとえば、資金が不要な人に貸し付けを行うことは、貸し倒れのリスクを高めるだけでなく、生活の質の低下にも繋がってしまいます。さらに重要なのがフォローアップです。マイクロファイナンスは、レンディング(融資)ビジネスでなく、コレクション(返済)ビジネスであるとも言われています。融資を実行するだけではなく、定期的に顧客との関係性を構築することによって、貸し手と借り手の双方が恩恵を受けられます。
- 山内デジタル化の推進も重要な課題ですね。
- 慎おっしゃるとおりです。デジタルトランスフォーメーション(DX)によって、現金の授受機会の削減や、顧客情報のデータ化による与信審査機能集約化などの業務効率化を行っています。一方では、アナログの対面チャネルは残すことによって人と人とのやり取りも大事にする。その両輪を回すことで、融資債権の質を示す貸倒引当金率はCOVID-19後も安定して低い水準を維持してきました。



志の高い企業にリスクマネーを積極的に投資
- 山内五常と伴走していると、ビジョンである「誰もが自分の未来を決めることができる世界」の実現と、マイクロファイナンス事業収益向上をバランスよく両立していると感銘を受けます。
- 慎そのために必要なのが事業資金ですが、SMBCグループにはエクイティ(株式)とデット(借り入れ)の両面でお世話になっています。SMBCVCには、メガバンク系のベンチャーキャピタルとして初めて出資をいただきました。
- 山内投資を実行したのは、更なる事業拡大やDX推進のための資金調達をする2023年の段階でしたね。弊社としては2017年ごろから五常とコミュニケーションをとっていましたが、これまでは投資実現に至りませんでした。
- 慎マイクロファイナンス事業への理解がまだ投資家コミュニティ全体で醸成されておらず、投資を受けるには早かったかもしれません。KYC(顧客の本人確認)をはじめとした世界的に求められる金融規制を、新興国で徹底できるかが疑問視する方もいらっしゃいました。また、日本よりも高い新興国での貸出金利についても、理解をいただく必要がありました。経済成長が早い新興国では、その金利水準が日本の比にならないほど高いのです。

- 山内私が五常の担当になったのは2022年のことです。社内でのマイクロファイナンス事業の社会的意義等への理解度は上がっていましたが、投資のハードルは高いという声もありました。しかしながら、私はぜひ五常にお力添えをしたいと思っていました。
- 慎ありがとうございます。
- 山内志高くチャレンジする人を金融の面から支援したいと考えています。マイクロファイナンスは、従来メガバンク系の金融機関では手を出しにくいビジネスです。そんな領域で金融包摂を実現し、社会的インパクトを生み出そうとする五常は、唯一無二のスタートアップであると考えております。
- 慎投資の実現には、大変な労力があったのではないでしょうか。
- 山内五常のビジネスモデルの優れた点と、経営課題解決への道筋、SMBCグループとして応援する意義をしっかりと社内で説明しました。その過程では、慎さんやファイナンスチームの皆様とも密にやり取りをさせていただきました。
- 慎そうでしたね。よく覚えています。
- 山内社内だけでなく、SMBCグループ全体を巻き込み、弊社が属するホールセール部門のみならず、コーポレートスタッフ部門やグローバルバンキング部門ともコミュニケーションを図りながら、投資実現へと導いていきました。

三井住友銀行をはじめグループ企業も支援
- 慎SMBCVCからの資金調達と並行して、SMBCグループとは複数のプロジェクトを進行していました。様々な論点があり時間を要しておりましたが、SMBCVCからの資金調達を皮切りに議論が加速し、2023年10月に三井住友銀行よりソーシャルローン(社会問題の解決に貢献する事業向けの融資)として90億円の融資を受けました。メガバンクからの資金調達は当社の達成すべき経営課題の1つであったため、これは、当社の事業成長の大きなきっかけとなるでしょう。
- 山内SMBCグループのリスクテイクは、金額の大きさ以外にも事業成長に繋がりますでしょうか。
- 慎マイクロファイナンス事業は、融資主体となっている企業が所属する国の銀行から資金調達を行うことが一般的です。そのようななか、日本のメガバンクである三井住友銀行から融資を受けられたことは信用の創出にも繋がりますし、上場を含めたエクイティストーリー(事業戦略)を描くうえでの基点となります。
新興国でのマイクロファイナンスという事業の特性上、三井住友銀行から弊社への融資にあたっては、社内の融資ポリシーの改訂が必要であったと想像するのですが、非常に手間と時間がかかる仕事を成し遂げていただけたことに感謝しています。

- 山内SMBCグループには、お客さまに寄り添い共に発展していくというカルチャーが根付いています。また、現場でやりたいことを最初から否定せず、実現の可能性を追求しようという経営姿勢もあります。そのなかで、SMBCVCが、リスクマネー投資という“風穴”を開けたことで、五常との取引深耕に繋げることができたと自負しています。
- 慎私は、資本構成はその会社に多大な影響を与えると思っています。金融業界は金銭を直接扱うだけに法律などの絡みもあり、他業界とビジネス事情が大きく異なるため、業界未経験の方には理解しにくい部分が多々あります。金融機関系のベンチャーキャピタルであるSMBCVCはもちろん金融業界への理解が深く、報告や相談がスムーズにできます。グループに多様な金融機関が存在していることも頼もしいですね。

金融業界全体に金融包摂実現に向けた風穴を開けたい
- 慎五常が目指すのは、民間版の“世界銀行”となること。各国で民間資金供給の中心となる金融機関を作り、五常はそれらを統括することにより、適切な価格で有益な金融サービスを届けたいと考えています。そのためには、資金が必要です。弊社は、金融包摂に興味を持つ投資家の資金の受け手になっていきたいと思います。
- 山内金融包摂については、SMBCグループとしても主体的に取り組むべき重点課題の1つとして位置づけており、五常とは「金融包摂における協業を目的とした覚書」を2023年10月に締結しました。これにともない三井住友銀行は、インドにおける金融包摂課題に取り組むベンチャー投資ファンド「UNLEASH 1号投資事業組合」に五常と共同で出資しています。先ほど、“風穴”と言いましたが、こうした取り組みを通じて、金融業界全体にも金融包摂実現に向けた風穴を開けられればと考えています。
- 慎そのほかにも、SMBCグループの皆さんとは意見交換やブレストの場を定期的に設けるなど、金融包摂をはじめとした事業を通じた社会的インパクトの実現をともに目指しています。
- 山内金融によって社会課題の解決を目指す五常を、SMBCグループの一員として今後も支援していきたいと思います。
