大久保 亮氏
リハビリ養成校を卒業後、医療・介護領域でリハビリテーションに従事。要介護者、介護現場で働く人、地域住民まで、介護に関わるすべての人が安心していきいきと活躍し続けられる社会の実現を目指して2016年に株式会社Rehab for JAPANを創業。法政大学大学院。
2022年時点における日本の高齢者人口は3,627万人、いまや総人口の29.1%が高齢者だ。その高齢者を支える介護業界自体も、人手不足や社会保障費の抑制など、多くの課題を抱えている。Rehab for JAPAN(リハブ)は介護業界をテクノロジーの力で変革すべく、クラウドサービスを提供。同企業を支え、グループの総合力という強みを生かし事業に投資するのがSMBCベンチャーキャピタル(SMBCVC)だ。Rehab for JAPAN CEOの大久保亮氏と、SMBCベンチャーキャピタルの中野哲治氏が、自社介護サービスや今後のビジョンについて語った。
リハビリ養成校を卒業後、医療・介護領域でリハビリテーションに従事。要介護者、介護現場で働く人、地域住民まで、介護に関わるすべての人が安心していきいきと活躍し続けられる社会の実現を目指して2016年に株式会社Rehab for JAPANを創業。法政大学大学院。
2008年三井住友銀行入行。以来、8年半に渡り中小~大企業への法人営業に従事、数百万円の小口融資から最大数百億円のLBOローンまでを主担当として実行。
2016年10月よりSMBCベンチャーキャピタルにて勤務。
投資スコープは、PreシリーズA~シリーズAの産業DXが中心。
Rehab for JAPANは、デイサービス向け科学的介護ソフト「Rehab Cloud」の提供等を行なっており、全国2,000以上の事業所で導入されている。AI等のテクノロジーを活用し、健康寿命の延伸に向けて、「エビデンスに基づいた科学的介護」の実現を目指す企業
中野 改めてリハブが提供する「Rehab Cloud」について教えてください。
大久保 「Rehab Cloud」は、介護事業所(特に全国43,000事業所あるデイサービス)向けに提供しているクラウドサービスで、介護現場の付加価値の向上と、利用者のアウトカムを追求する「科学的介護ソフト」です。
介護業界は慢性的な人手不足ですが、現場には尋常ではない書類業務がまだまだあり、その書類業務を圧倒的に効率化するプロダクトを提供しています。また、社会保障費の抑制という観点でも、要介護高齢者の自立支援・重度化防止が重要視されていますが、「Rehab Cloud」ではテクノロジーを通じて現場の介護リハビリを支援しています。
中野 リハブのビジネスモデルで魅力に感じたのは、介護施設が収益増の機会を得られることにもあります。介護事業所の収入の内訳を見ると、要介護者・要支援者の受け入れで発生する基本報酬と、一定の要件を満たすことで給付される加算部分で成り立っています。報酬額は3年ごとに国によって改定されますが、その傾向を見ると、基本報酬は改定ごとに漸減し、加算部分が増えているんですね。
大久保 加算は国が重要視するテーマで配分されますが、自立支援・重度化防止の推進と科学的介護というアウトカムベースの報酬体系に移行していくと考えられています。
中野 そこで「Rehab Cloud」の出番ですね。「Rehab Cloud」があれば、現場の体制を少し変更するだけで、効果的なリハビリを実施しながら、収入を増やことができるわけですよね。通常、現場の効率化だけでなく収入増にも繋がる「Rehab Cloud」は、施設にとっては手放せないソリューションとなります。
大久保 中野さんと最初にお会いしたのは、2019年のはじめでした。今の「Rehab Cloud」の原型になるプロダクトをリリースしたのが2018年で、チームとしてはまだまだな状態でした。
中野 外から見ていても、チームづくりも含めて、解決すべき課題も当時はあったかと思います。しかし、人の素晴らしさには目を見張りました。
大久保 ありがたいことに人には本当に恵まれていました。
中野 介護現場出身のメンバーも多く、高齢化する日本の現状を変えようと情熱を持って動き、それに共感する多数のエンジニアがいます。あとはなんといっても元リクルート社の池上晋介さんの存在にも驚きました。
大久保 18年ごろからサポートしてもらっています。
中野 同社の主力事業である「HOT PEPPER Beauty」を牽引していた池上さんが、介護業界の構造や高齢者の生きがいに思いを馳せ、意気投合し事業づくりをしようとしている。改めて、リハブへの期待が高まったんです。
大久保 池上は2019年10月より正式にジョインし、今のリハブを一緒に創ってきました。彼の仲間だった元リクルートのメンバーの参画や、その他にも優秀でハートフルな人が集い、成長を加速させることができています。
中野 ビジネスの世界で素晴らしい成果、実績をあげてきた優秀な人たちが、自身のキャリアの集大成を考えたときに、より重要な社会課題解決テーマに向き合いたくなるのはある意味必然なのかもしれません。ただ、いろんな社会課題テーマは多く存在する中で、介護業界、そしてリハブを選んでいることが凄いことだと思います。これは、年齢を重ねる中で介護が身近になってきているだけでなく、大久保さん自体の魅力ゆえなんだろうなと。こういったスタートアップに血の通ったリスクマネーを投資できることは投資家冥利につきます。
大久保 ありがとうございます。
大久保 SMBCVCには、これまでに4回投資をしていただきました。期待に応えるべくモチベーションにすると同時に、御社の支援体制を非常に心強く思っています。
中野 特にどのような点がお役に立てていますか。
大久保 ネットワーキングですね。リハブでは、営業やコラボレーションしたい企業をリストアップしています。リスト先の企業と話をしたいときに、SMBCVCのグループ会社である三井住友銀行の担当者を通じて、その企業のキーパーソンに繋げてもらえますよね。希望して会えなかったことはないんじゃないかな。
中野 それは投資先の成長を支援する、投資戦略部の活躍も大きいです。
大久保 しかも、毎回驚くのはそのスピード感。早いときは、お願いから1週間で実現することもあります。私たちスタートアップは「スピードが重要」と言いますが、SMBCほどの大グループが、それに合わせて動けるというのは驚異的ですし、しびれます。
中野 スタートアップと伴走するのが、私たちの役割ですから。
大久保 営業までご同行いただけるのも心強いと感じています。
中野 紹介者としてもちろん同席しますが、勉強の目的もあるんです。商談では事業をより深く知ることができますから。リアルタイムな業界の動向や、プロダクトの強みや改善点を知り、投資先に関する解像度を上げて、それを社内に共有してファンを増やす。その輪を繋げることで、SMBCグループ全体としてチームで投資先を支援したいと考えています。
大久保 知見を広げるお手伝いもしていただいています。中野さんは、現在は何社くらい担当されていますか?
中野 30社ほどです。
大久保 中野さんとの対話で、業界ごとの組織編成や資金調達の方法は様々で、多様な業界の投資先を見てきた中野さんのアナロジーは、いつも勉強になります。
中野 リハブの事業でもうひとつ大きな期待を寄せるのが保険外事業です。
大久保 経済産業省の試算では、要支援・要介護者の生活支援の市場規模は約5.6兆円で、今後も市場拡大が見込まれています。介護業界が新市場開拓の「場」となり、他産業からの参入が増えることで、より魅力的な市場につながっていきます。
中野 新市場が創出される上で、どの辺がポイントになると思いますか。
大久保 やはり「データ」になっていくと思います。というのも、要支援・要介護高齢者の方は生活上のペインが大きく、また人生経験も豊富なため、サービス設計にはより「個別性」が重要視されます。海外と比較して圧倒的な優れた介護保険制度が介護業界にはあり、新たな超高齢社会のポテンシャルを引き出すことが可能になります。
中野 リハブのケア・データ・プラットフォーム(CDP)構想は、とてもユニークですよね。
大久保 CDPは日常生活や服薬情報、身体機能などはもちろん、住環境・趣味・本人の意志思考に関する情報など、広範なデータを格納したCDP取得しています。個人情報保護やガイドラインをしっかりと順守した上で、他産業との相互運用をどう担保していくかを考えていきたいと思います。
中野 これからの長寿社会の時代は、改めてデータアセットが重要になりますね。
大久保 例えば、認知症やMCIの高齢者へのサポートを行うプロダクト開発をする場合に、家族構成や住環境などの従来はブラックボックスだったデータを、CDPから抽出して効率的なものづくりが可能です。
中野 登山に例えるなら、目指すべき頂はまだまだ先ですね。
大久保 まだ2合目といった感触です。改めて、私たちの使命は、介護業界の企業として収益力のある会社としての強さと、介護業界に参入するプレーヤーを増やしていくことだと思います。介護・福祉領域における社会課題解決と、資本市場における成功の両立、目標を成し遂げるため野心的に取り組んでいきます!
中野 私たちSMBCVCも、全力で支援させていただきます!